誑す

こんにちは上田です。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次に誑とは、他人を騙し欺くこと。他人に信用してもらう為に本当は徳がないのにあたかも徳があるように見せて言葉巧みに相手を言いくるめること。
例えば、入社試験の面接の時に、他の人よりも少しでも自分を良く見せようとしたり、恋人に気に入られようとしていい人を演じたりすることが、誑の心です。
でも、そんなこと誰だってしていることだし、入社したり、恋人から好かれる為には必要なことだから、悪いことではないと思う人が多いと思いますが、そうやって自分を良く見せて信用してもらえばもらうほど、相手が普段の自分を知ってしまったら、騙されたと思うことでしょう。
では、どうして私たちは他人から良く見られようといい人を演じてしまうのでしょうか？
それは誰しも心の中に自分のことを認めて欲しいというどうしようもない欲求を持っているからです。
これを親鸞聖人は教行信証の中に「愛欲の広海に沈没し」と教えられ、私たちの心の奥底には自分のことを愛して欲しい、認めて欲しいというどうしようもない欲求が広い海のようにあり、その心に沈んで、いつもこの心に振り回されて、ちょっと認めてもらうと嬉しくなったり、反対にちょっと否定されたり無視されたりしただけで落ち込んで苦しむ。そんなどうしようもない感情を誰もが抱えているのです。
だから、「人はパンのみで生きるにあらず」と言われるように、肉体を維持する為に食事が必要なように、心を維持する為に他人から認めてもらうことが、必要なのです。
つまり、私たちにとって他人から認めてもらうことは心の食事なのです。
この心の食事を十分にとっている、つまり、まわりの人から十分に認めてもっている時は心も健全に保たれ、冷静に物事を判断し行動することが出来ますが、反対に頑張ってもなかなか認めてもらえないと、心の餓鬼状態になって、今相手から認めてもらえるなら、後はどうなっても関係ないと可笑しな言動をとるようになります。
この誑すという心も今、自分が認めてもらうことしか考えていないから、言葉巧みに自分をよく見せ、信用してもらおうとするのです。冷静に考えたら、どんなに今、自分をよく見せ、信用してもらったとしても、ちょっと付き合えば、その化けの皮が剥がれ、本当の自分が分かってしまいます。その時、自分をよく見せて信用してもらっていた分だけ、相手は騙されたと感じて腹を立て、もう自分のことを信じてはもらえないということは少し考えたら、分かるはずなのに、その人にとって、今、自分を認めてもらうことしか考えてないので、先のことは見えていないのです。
このように誑すという心は先を見る智慧がない為に起きる心です。
先を考えたら、どんなに言葉巧みに自分を良く見せたって、本当の自分を良くしなければ、始めのうちは信用されても、やがて化けの皮が剥がれて、信用を失い、自分のもとから他人は離れてゆくだけなのに、それが分からず、今だけでも認めて欲しいと思って、よく見せようとしているのです。
だから、誑す人は、表面的な浅い付き合いは出来ても、深い人間関係を築き上げることは出来ません。
でも、このような人は寂しがりやで、自分のことを認めてもらいたい一杯なので、常に誰かと一緒にいて、そこでいい顔をして認めてもらい、寂しさを誤魔化そうとします。
しかし、どんなに楽しく友達と話していても、どこか心は寂しく満たされないものがあります。何故なら、表面的に楽しく接すれば接するほど、もっと自分のことを分かってもらいたい、本当の自分を知ってもらいたい、という気持ちが吹き上がってきます。
そして、我慢できなくなって今まで隠していた感情が吹き上がってしまうと、今度はこんな自分は嫌われたに違いない。切られる前に切ってやると自分から人間関係を断ち切ってくるのです。
だから、誑す人はどんなに長く付き合っても、いざという時には何時でも人間関係を断ち切ることができるように、いつも人と付き合う時は壁があります。
それが相手から見たら、何年も付き合っているのに、どこか他人行儀で壁があり、その人と深まるものがなく、残念な気持ちになります。
やがて深い人間関係を築きたいと思っている人は、その人から去ってゆき、損得勘定でついたり、離れたりするようなそんなドライな人間関係だけが残ります。
そして、いつもその中で相手から嫌われないように役に立つように常に頑張り、いい顔できている間はチヤホヤされますが、歳をとり、段々と思うように動くことが出来なくなると、潮が引くように人が離れてゆき、家族からも邪魔者扱いをされて、孤独に寂しく生きてゆかなければなりません。
誑す人は誰よりも人と一緒にいたいと思いながら、いつも心は寂しさで一杯で満たされることなく、最後は誰からも相手にさらず、邪魔者扱いされて孤独で死んでゆかなければならないのです。