西路を指受せしかども

西路を指受せしかども　自障障他せしほどに
曠劫以来もいたづらに　むなしくこそは過ぎにけれ
西路とは、幸せになる為の道。仏教では二河白道のことです。二河白道とは現実の自分と向き合ってゆく道。現実と向き合うと、今までの自分が見えてくる。今まで自分はどんな人生を生きてきたのか、どんなことをしてきたのか。それが現実と向き合うと見えてきます。それは、現実とは今までの自分の種まきによって生み出されたものだから。だから、現実を通して他人からされることは、過去自分も他人に対してやってきたこと。身体ではやって来なかったかも知れないけど、心では思っていたことが現実となって、目の前に現れます。それは、まるで「あなたはこんな人間ですよ。」と言われているように、相手を通して見せつけられます。でも、私たちは善いことをしてきたと思いたいから、相手の姿が自分の姿だと言われると腹を立てて、「こんな酷い人間が自分ではない。」と反発する。しかし、どんなに現実を反発したとしても、現実は何も変わらない。だから、私たちは現実を見たくなくて、欲や怒りの煩悩を起こして、現実を誤魔化したり、否定してしまうのです。これが二河白道の水の河、火の河に落ちること。ここで水の河とは欲の心を表し、火の河は怒りの心を表します。私たちは都合の悪いことが起きると欲に逃げ、怒りを起こし、現実を否定する。でも、現実は今までの自分の種まきによって生み出されるものであるから。本人が現実を受け止めて反省しない限り、現実が変わることはありません。ここで現実を受け止めて反省するとは、「目の前に現れた相手の姿は自分の姿なんだな。こんな酷いことを自分はしてきたのだ。その為にどれだけ他人を傷つけてきたか知れない。知らなかったとは言え、悪いことをした。」と傷つけてきた相手の気持ちを理解すること。これが現実を受け止めるということ。受け止めたならば、反省が生まれる。
今まで知らずに傷つけてきた人に対して、優しくなります。ここで大事なことは、現実を見せてくる目の前の人に対して優しく接してあげたいと思うようになる訳ではないということ。今まで自分が知らずに傷つけてきた人に対して、「悪いことをした。今まで傷つけてきた分、大事にしたい。」と思うようになることなのです。そして、現実を見せる目の前の相手は、過去の自分。そう思うと大事にはできないけど、見捨てることもできない。それは自分だからです。これが反省するということです。でも、私たちは自分は今まで善いことをしてきた、間違ったことはしていないと思っているし、思いたいので、目の前の現実、つまり、相手の姿は自分だという真実を否定してしまう。これが自障障他ということ。
現実を認めてしまったならば、今まで自分が相手に対してやってきたことを認めなくてはならなくなる。それは自分が相手を傷つけてきたという事実。それを認めたら、相手はこんな自分をどう思っていたのかを考えてしまう。自分だったら、そんな相手を許せないし、恨む。だから、相手のことを考えると、相手は自分を恨んでいるのではないか、自分のことを責めているのではないか、と考えてしまう。そう思うと、自分でこんな酷いことをした自分の存在が許せなくなる。それは今まで間違ったことをしている人を責めてきたから。だから、責めてきた分、自分が間違ったことをした時、責められているように感じる。自分の正義が自分の心を責めるので、苦しくて現実を受け止めることができないのです。だから、少しでも現実が見えると自ら煩悩を起こして現実を見えないようにさせる。これが自障です。そして、現実を見せた相手を責めて、もう現実を見せないようにさせる。これが障他。この自障障他がある為に、私たちは自分が傷つけてきた相手の気持ちが分からない。その為に自分の都合ばかり優先して、自分の世界の中でいつまでも意地を張って、“自分は間違っていない”。それを証明する為に生きることになってしまうのです。だから、何時まで経っても反省することができず、苦しみ続けなければならなくなる。これが、“昿劫以来もいたずらにむなしくこそは過ぎにけれ”なのです。